「たかが漫画と言うなかれ」
大人がマンガを読んでいると「いい大人が・・・」などと言われた時期もありましたが(今でも結構そうですかね・・・)、成人向けマンガが増えてきて内容的にも「いい大人」にこそ読んでほしいマンガがたくさんあります。
人生の役にたつ、娯楽の中にも学びがある、そんなマンガをご紹介できたらと思います。
あらすじ
時は1973年10月16日、フランスはパリの革命広場で王妃マリー・アントワネットが処刑された。
その時を待つ冷たい牢獄で彼女が握りしめていたのは一枚の、緑色の上質なスカーフ。
そのスカーフを命がけで王妃に届けた女性がいた。
その女性の名はローズ・ベルタン。
平民の出でありながら、ベルサイユ宮殿で貴族以上の権勢を誇ったモード商。
悲劇の王妃マリーアントワネットの寵愛を受け、革命の嵐に翻弄された、ファッションデザイナーの祖と言われる人物の物語。
さてマリー・ベルタン嬢、フランスの片田舎で町一番と言われた髪結いでした。
当時は絶対的な男社会で、まして田舎町では女性は働くだけでも疎まれる。
そんな中、女が一人で生きていく力をつけるために、髪結いのほか、服や帽子を仕立てる修行をして懸命に頑張っていましたが、ベルタンの心の支えでもあり、想いを寄せていた幼なじみが結婚することになります。
その相手が、親の地位が高いことを鼻にかけて傍若無人な振る舞いで、ベルタンにも散々面倒をかけていた娘。
ベルタンとしても面倒ではあったものの、お客でもあったので我慢して要求をきいていた娘。
なんでそんな娘と・・・と思ったベルタンでしたが、その娘からウェディングドレスの製作を頼まれ受けてしまいます。
最高のウェディングドレスを仕立てて結婚式を見届けたベルタン。
式が終わった時に「もう私には必要ない」とベールを託されます。
そのベールをかぶって・・・
ひと泣きしたベルタンは自分の可能性を信じてパリに旅立ちます。
町一番と言っても所詮は田舎町の出、パリの敷居はベルタンには高いものでしたが、ベルタンのセンスと努力、そして数々の出会いを重ねモード商としてのし上がっていきます。
※モード商とは、主に仕立て屋で、この時代は服を製作して販売する仕事をモード商と呼んでいた。
このマンガの魅力
引き込まれるストーリー
ちょっとあらすじ語りすぎましたね。
と言っても、あれだけのことがあってもまだ序章にすぎません。
パリでの苦労と活躍が実に読み応えのある、やっぱり名前を残す人というのは一味も二味も違う人生を歩んでいるのだなと思い知らされます。
実は表紙のベルタン。あのキリッとした目が結構好きなので、その美貌で「傾国」になったのかと思いきや、作中でベルタン自身が述べていますが「美しい方ではない」のだそうです。
ネットで検索するといくつか絵が出てきて、確かに美人ではありません。
けど「絵」なわけですから、書いた人やシチュエーションによってどれだけ正しいのか?というのもわかりません。きになる方はネットで検索するなり、また別の調べ方をするなりしていただければと思います。
信ぴょう性の高い情報があれば、教えていただけると嬉しいです。
メインはこうしたベルタンのサクセス・ストーリーなわけですが、マンガを読んでいくと本当に生涯独り身だったベルタンの秘密(ということでもないかも知れませんけど)がわかる気がします。
絵の魅力
ストーリーもさることながら、なんと言っても磯見仁月先生の絵が素晴らしい!
ベルタンの顔が好みということではなくて、ドレスや帽子、ベルタンが生み出す服飾品の数々はマンガということを忘れるくらい美しいのです。
個人的にはのし上がろうとしている時のベルタンの作品が、1点1点じっくり見れる構成なので好きなのですが、その画力で「あの」ベルサイユ宮殿の中の栄華を表現される。まさに圧倒されます。
いや、上には上がいますよ、確かに。
それこそ今の時代は「写真」撮って絵的に加工して・・・
絵の美しさと魅力ってそういうものではないですよね。
「この流れの中でこの絵を出すのは反則だよ」と言いたくなるくらい、シーンごとに素敵な絵があります。決して損はさせません!と言って良いんじゃないかなと思いますよ。
ぜひぜひ機会があれば、いや、この際だからこれを機に、手に取ってみるべきだと思うのです。
歴史観
話間に編集さんと仁月先生の対談小話が掲載されていますが、そこを読むと「史実に対して先生がどう対処しているのか」がよくわかります。
「ここは資料がないので」とか、時代的に合っていないかも知れないけど「世間の認識的に」とか。
そう語っているということは、絵的にはかなり史実を意識してそのように描かれているのだということがわかりますよね。
マンガだし創作なので、これを「伝記」として読もうというつもりはありませんが、歴史観も登場人物も相当に描き込まれているので、こういうことがあった中で、こんなこともあったかも知れないねえ、という気持ちで読んでいます。
お手に取られたら、ぜひ「編集さんと仁月先生の対談」も読んで史実との相違を知って、歴史を学んでみるのも良いと思いますよ。
終わりに
実際に表紙を見て「気になって」
読み始めて「あれ、少女マンガぽい(前面に出てる?)感じ」
と感じながら読み進めたら虜になった。という感じです。
マンガを見て「美しさに鳥肌がたった」のは初めてですし、その美しさの背景に涙が出そうになったのはここだけの話です。別に泣けるストーリーではないんですよ。
長くを語るとネタバレが止まらなくなりそうなのでこの辺にして、できれば「読んだ方々と」語りながらシャンパンでも飲んだら楽しいだろうなと、夢を見ることにしましょう。
最後までお付き合いありがとうございました。